囁き

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囁き

——向かいのデスク。ディスプレイ越しに左眼でこちらを見ながら。 「最近、40代の女優が気になるんです。なんか、いいですよね」 「そうなんだ〜。私もそういう女になれたらいいんだけどな……」 「小島さん、かなり近いんじゃないですか」 (二十も歳の離れた男が、まっすぐこっちを見て、真面目に言う。透き通った肌、すっと目尻に向かって切れた眼、形のいい鼻、唇。) ——コピー機の前。右側に気配。 「小島さん、髪切りました?」 「はい」 「…素敵です」 (うまい返しができない。冗談めかして言ってくれたら気が楽なのに。) ——デスクにて。 「いや〜もう今日は疲れた…眠いわ」 「はい。これうまいっすよ」 「チョコレート! うわ、ありがとう」 (差し出された手。白くて長い指に貼りついたm&mを剥がして自分の手のひらに移す。) ——昼どきの給湯室。 「今度の日曜、ぼく森ノ宮公園のグラウンドで草野球の試合があるんですよ」 「森ノ宮かあ…ちょっと遠いなあ」 「えー、観にきてくれないんですかあ? 寂しいなあ」 (え、ほんとに観に来てほしいの? 私に? まさか。)
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