つかまえた

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 これから初めての体験をすることに密かに高揚し、バイト仲間とはいえ家族以外の人間と連れ立って出掛けることに心踊らせた。  歩いて行く道すがら、野良猫に威嚇された。鎖に繋がれている飼い犬に吠えられた。電線に止まっている(カラス)は狂ったように鳴いた。  バイト仲間も奇怪(おか)しいと騒ぎ出した。無駄吠えする馬鹿犬もいるだろうけど、ここまで牙を剥き出しにして泡を吹きながら楯突くものか?  不気味さを感じながら、歩いて行ける距離にある神社を目指す。けれど、何だか身体が重くなってきた。息も苦しい。こんな距離を歩いてへばるほど体力が落ちているわけはない。なのに酷く脚が重い。脚と云わず、身体全体に重石を着けられているようだ。  必死に踏み出す一歩を繰り返すうち、とうとう道路にへたり込んでしまった。どうにも身体が重い。重くて堪らない。俺はこんなにも体力が落ちてたのか?  それでもいつまでも道路に座っているわけにもいかず、バイト仲間の肩を借りて立ち上がる。脚を動かそうとした時、目の前の人影に気が付いた。  巫女だった。  その巫女は、俺を指差して一言告げた。 『────去れ』  生身の声とは思えない、電話越しに話している時のような、何かを通して話している声みたいだった。バイト仲間も、突然現れた巫女に戸惑っている。 『去れ。来るな。死にたくなければこれ以上近付くな』  この先に在る神社の巫女なんだろう。緋色の袴が燃え上がるよう、目は夕焼けのように爛々と輝いて、物凄い迫力だ。  ────意識を保てたのはここまで。  気が付くと、俺は空き地に倒れていた。 「気付いたか」  疑問を感じる前に声を掛けられた。慌てて飛び起きて姿を探すと、先ほどの巫女だった。周りを見回すも他に誰も居ない。バイト仲間たちはどこに行ったのか訊こうとしたら、声を発する前に制止させられた。 「時間がない。お前の連れは帰らせた」  ツンとした硬い声音だった。帰らせた? 何で? 何でこいつが勝手に? 「このままここに居てはお前は周囲に害を成す。帰れ」  カッとなった。何でそんなことを言われなくちゃならない!? 「お前の周囲は既に見張られている。自覚がないのか?」  俺が気分悪くしたことぐらい伝わっているだろうに、巫女は平然と話し続ける。腹が立ったけど、今聞き捨てならないことを言った。 「俺の周りに起きてる変なことか!?」  まさにそれを解決して欲しくてここに来たんだ!
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