サブマージ・サマー

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「なんでわかんないの」 「だって、俺たちは子供だから。くだらない伝統に逆らえない子供だから」  ねえ、なっちゃん。七瀬は続ける。 「早く大人になりたいね」 「……うん」  大人になったらどうなる? わたしは今の、これっぽっちも好きじゃない彼氏と別れることができて、七瀬もそうで、それで、何でもできるようになった大人のわたし達は死ぬまでずっと一緒に居られる? わたしの小さな頭の中にはその問いに対する答えはない。だから、近すぎて何も映っていない七瀬のすべてを吸い込んでしまうような瞳の中には何か答えがあるんじゃないかと思って、ずっと見ていた。「那月!」——彼氏に名前を呼ばれるまで。  振り返ると、駆けてきたわたしの彼氏と、その後ろに七瀬の彼女。二人とも浴衣を着ていて、七瀬の彼女なんてすごく走りづらそうでよたよたとほぼ歩いている。七瀬は何事もなかったかのように、わたしから離れていった。 「こんなところにいたんだ、何回も電話したんだけど」 「あー、ごめん、充電きれちゃって」  ——よくもこう、ぺらぺらと嘘が吐ける。 「七瀬くんもごめん。そっちだってデート中だったのに」 「いいよ別に、なっちゃんのお守りくらい」  ぐさり。また、棘が刺さる。今のは結構深い。
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