サブマージ・サマー

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 七瀬は自分の分の電球ソーダをもって立ち上がる。見ると、彼の分のたこ焼きやらイカ焼きはいつの間にか胃の中に消えていた。わたしは七瀬の方を見なかった。 「なっちゃんのことちゃんと見ておきなよ。変な男に攫われても、もう知らないから」  去り際、器用に自分の姿で彼氏からわたしのを隠した七瀬は、わたしの髪をやさしく撫でた熱い指を、耳、頬、唇へ這わせていった。思わず七瀬を見ると、振り返った七瀬は楽しそうにほくそ笑んだ。  祭りの喧騒に消えていく七瀬とその彼女の後姿をじっと見た。木陰から出た七瀬には美しい花火がよく見えるらしく、彼女が指さす方向に首を向けている。楽しそうに笑っている。さっきまでわたしに触れていたはずの指は、彼女の腰を抱いている。ああいうのを見ると、わたしはわからなくなる。七瀬の言うことなんて全部その場の雰囲気に任せたようなでまかせで、わたしはとっくの昔から彼に騙されているんじゃないかって。  だから、教えてほしい。声に出して。信じさせてほしい。
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