サブマージ・サマー

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 毎年、七瀬じゃない人と夏祭りに行く度、一丁前に「七瀬も来ていないかな」とか「七瀬に会えないかな」とかそんなことばかり考えていたから忘れていた。実際は一度も二人で祭りに来たことなんてないのだけれど、わたしの頭の中には毎年七瀬がいたから、そういう気になっていた。  そんなわたしの妄想は全部バレていたのか、七瀬は「くくくっ」と肩を震わせている。わたしたちが座っている大木の麓では青々と草が茂っていて、その中にいる暗くてよく見えない夏の虫たちさえも、わたしを嘲笑するかのようにヒリヒリないていた。  悔しくなって、言い返す。 「なんか、夏祭りって感じ、しないけど」 「どうして?」 「だって、木陰で涼んでるだけ。たこ焼きとかイカ焼きとかわたあめとかかき氷とか。何も食べてないもん」 「それは、俺の貴重な浴衣姿でチャラにするってことで」 「ならない」 「強情。そんなに食べたいの?」  甘い問いかけには頷いて答える。妖艶に微笑む七瀬の手がわたしの顔まで伸びてくると、頬は今日の鮮明な夕焼けよりも赤く染まる。どっと体中の汗が吹き出た気がして力を込めたけど、多分汗は止まらない。きつく目を瞑る。次に目を開いたとき、わたしの視界はまた狭くなっていた。狐のお面を被らされたのだ。
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