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賑やかな海岸で、彼女は1人だった。
真っ白な砂浜に点々と立てられたパラソルが良く映える。
少女は砂を踏みしめるようにゆっくりと歩く。身の細いサンダルが描いた足跡は、直ぐに波に洗われる。
「……」
波の音に耳を澄ます。水遊びに来た観光客の喧騒など、今の彼女の耳には入ってこない。
ああ、なんて優雅なの夏の休じ──────
べしっ。
頭に衝撃。
「……」
横を見ると、大きなスイカが転がっていた。
さっきの『べしっ』て……これ……?思わず自らの脈を取る。良かった、生きてるわ。
「すみませーん!!飛んでっちゃいました!」
遠くで水着の若者が両手を振っている。どうやらスイカの持ち主は彼ららしい。スイカに触れてみると、拍子抜けするほど軽かった。なるほどビーチボール。初めて持ったけれど案外軽いのね。彼女は笑顔を作ると彼らにそれを投げる。
ボールが滑らかな曲線描いて彼らの手元に収まるのを見届けると、彼女は持っていた日傘を開き、海と逆方向に歩き出す。
防波堤に上る為の階段。外れにある古いコンクリート製のそれは、新しいスロープが出来てからは殆ど使われることはなかった。白いワンピースが汚れることも厭わず、少女はそこに腰掛ける。そうしてポケットから1つ、また1つと貝殻を取り出しては、コンクリートの上にまっすぐに並べていった。
「地道な作業ですねぇ……」
少女は驚き、左右を見回す。緩いカールの髪がふわりと揺れる。
「あぁ、上です、上」
頭上の防波堤の上に、男が腰掛けていた。彼女はぎょっとする。黒い。肌は白いのだが、海に似合わない黒いコートに、寝癖としか思えない乱れた黒髪の主張によって、その白さが全く働いていない。
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