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『…今日は早く帰って来なさい』
それだけ聴こえ、時間切れになった。
その声はいつもより少し柔らかく感じた。
「──────はい、お父さん」
声を届けることのない受話器にそう告げ、そっと戻した。テレカを受け取り、重い扉を開く。妙に頬が火照っているのは、夏の暑さのせいだろうか。その足取りが軽いのは細いサンダルのせいだろうか。
「──────あれ」
外には、誰もいなかった。蝉の鳴き声が一斉に雛子を包む。雛子は逢坂が元いた場所に向かう。
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