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そこには彼が持っていたコートが丁寧に畳まれて置いてあった。それを見て少しほっとする。
彼女はそれを拾い上げると、手に抱え、木々の間を歩き出す。沢山の木があるこの一帯は、小さな森のようだ。
「逢坂さーーん」
足を一歩ずつ進める度、蝉の声が大きくなる。それに呑み込まれる錯覚に陥り、急に不安になる。
「どこ行ったのかしら…」
足を止め、空を仰ぐ。太陽が木の葉の間から優しく降り注ぐ。穏やかに進む時間。彼女の周りだけが世界から取り残されたようだ。
「やあ、探しましたか」
妙に懐かしい声に、雛子は思わず振り返る。そして目を見開く。
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