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「…貴方、蝉まみれですよ」
「いやぁ、蝉を引っつけて遊んでいたら、木と間違えられたようで、他の蝉も集まって来て、この有様です」
逢坂は苦笑いして肩をすくめる。雛子は思わず後ずさる。
「失礼ですが、ちょっと気持ち悪いです…」
「蝉がですか…え、もしかして僕…?」
僕、の所で自分を指さす。
「…どっちも」
「早急に処理します」
逢坂がパチンと指を鳴らすと、蝉が一斉に飛び去った。彼はマジシャンか。
「ご自分では何とも思いませんでしたの?」
「来るものは拒みません。たとえ蝉であっても!」
「はぁ」
「溜め息つくと……ってこのくだりはもういいですね」
逢坂が笑う。雛子もつられて笑う。
「僕、蝉は好きですよ」
「どうして?」
「この声に包まれると、自分がちっぽけに感じます」
「ちっぽけでいいの?」
「だって大きかったら責任とか借金とか色々背負わなきゃでしょ」
「…確かに」
雛子にはそれが妙にしっくりきた。
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