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「暑くないのですか?」
少女は率直に気になった事を訊ねる。
「どうしてです?」
頭上から声が返ってくる。
「どうしてって……。今日はこんなに暑いのですよ。それは寒い日に着るものです。私、大きなカラスかと思ったわ」
「それを言ったらお嬢さんも晴れてるのに傘なんか差してるじゃないですか」
男がこちらを覗きこみながら、指さす。
「これは日傘ですのよ。日差しよけです」
少女は淡い色の傘を見せびらかすようにくるくると回す。
「あ、じゃあ、僕のこれも日差しよけです」
「『じゃあ』、って何ですか。『じゃあ』って」
「冗談はさておき、夏仕様ですのでご心配なく」
「はぁ」
「ため息つくと寿命が3年縮みますよ」
「……はぁ」
「あ、ほらまた」
遠くで海水浴の客の賑やかな声が聞こえる。人の少ないこの辺りでは、波の音が一際大きく感じられる。
「泳がないんですか」
男が訊ねる。
「私の勝手でしょう」
少女は小さな声で答える。
「……その台詞、女性は皆言いますよね。流行ってるんですか?」
「皆に言われるのですか?」
「ええ。…ついこの間も」
少女は弾けたようにお腹を抱えて笑いだした。男はその姿を怪訝そうに見つめる。
「ああ、おかしい。私、その人達の気持ちがよく分かるわ。そりゃ、言いたくもなるもの」
「はぁ」
「ため息つくと寿命が3年縮むのよ。ご自分で言ってたじゃありませんか」
少女はおどけて言うと、日傘を閉じ、笑いながら階段を駆け上がった。そして男の横に腰掛ける。
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