テレカ屋さん2 夏の浜辺にて

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「思ったより高いのね。こんな所に座ってらしたの」 少女は目を細める。 「貴女には高いかもしれませんね。でも、 見晴らしがとっても良いですよ。ほら」 「見晴らしって…人ばっかり見て楽しいのです?」 「人ばっかりだから楽しいのです」 「そうかしら」 「そうですよ。ほら、賑やかですよ」 「……そうかしら」 「そうですよ」 「あなたは泳ぎに行かなくて?」 「僕、多分泳げないんですよ」 男は肩をすくめて苦い顔をする。 「この辺りの方で泳げないの、珍しいわ」 「遠くから来たんです」 男は目を細める。 「お嬢さんは近所の方ですか」 「ええ。ほら、あそこに古い洋館が見えるでしょう?あそこに住んでおりますの」 見ると、小さいながらも小綺麗なレンガ造りの屋敷が遠くに見える。 「申し遅れましたわ。私、一峯寺(いっぽうじ)雛子。女学院に通っております」 そう言って、防波堤には似合わないほど丁寧に頭を下げた。顔を上げると、男が細い指で名刺を差し出している。雛子はそれを読み上げる。 「あふさかにろう?」 「現代的仮名遣いでお読み下さい」 「逢坂二郎(おうさかじろう)」 逢坂は満足げに頷いた。 しかし雛子は尚も訝しげに名刺を見つめる。 「変わった名刺。お名前しか書いてないのね」 「気になります?」 「ええ───何故かしら、私にも良く分かりませんの」 それを聞いた逢坂は立ち上がり、座っている雛子に手を差し出す。 「───少し付き合って頂けますか」 雛子は少し躊躇った後、その手を取る。 彼に手を引かれ、海岸を離れる。
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