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海岸沿いの錆びたガードレールで囲まれた狭い歩道を一列になって歩く。
「手なんか引かれなくても歩けますよ」
「あぁ、ごめんなさい。確かにこれじゃ連れ去ってるみたいだ」
ぱっと手を離す。
雛子はぽつりと呟く。
「それも悪くないかもしれないわ」
「僕は絶対嫌ですよ!捕まりたくないもん」
「冗談ですって。私もお父様から怒られたくないもの」
はるか上空を舞っていたカモメが、空の向こうへ飛んで行った。
「でも、たまに思うのは本当よ。誰かがどこかに攫ってくれないかなぁって」
「夏の暑さのせいですよ」
冗談なのか、適当に流しただけなのか、大真面目に言っているのか──────前を歩く逢坂の表情は見えない。
「きっとそうね────」
雛子は、柔らかく微笑んだ。
海辺の喧騒は殆ど聞こえなくなっていた。車のエンジンを蒸す音と、波の音が鼓膜をかすかに揺らすのみだ。
逢坂がふいに訊ねる。
「暑さに浮かされたついでに、一つ、私の話を聞いて頂けますか」
「?────ええ」
「貴女は神を信じますか?」
「信じるわ。だって皆が信じてるもの」
「天動説は?」
「信じないわ。そう学校で習いました」
「学長は実はカツラだと言ったら」
「……薄々気づいてたけど、やっぱりそうだったのね…」
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