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「では──────」
彼は突然立ち止まり、こちらをくるりと振り返る。
「いつにでもどこにでも誰にでもかけられる世にも奇妙なテレホンカードがあると言ったら、貴女は信じますか」
急な事に止まりきれず、彼の背中に顔面を強打した雛子はクラクラする頭で考える。
いつにでもどこにでも誰にでも?そんな事がありえるのだろうか。
「タイムマシンとどこでもドアを飲み込んだテレホンカード、って事かしら」
「適当な例えですね。今度私も使おう」
「どうぞ、どうぞ」
適当に、あしらいながら、雛子は考える。
お父様ならきっと信じるなって言うわ。怪しいもの。でも、もし本当だったら──────そう考えると雛子の胸が高鳴るのは、誤魔化しようのない事実であった。
「信じるわ。信じられないけど……」
「それはどっちですか」
「信じたいけど信じられないの。そんな不思議な話聞いた事もないし、見た事もないもの。本当だったらそんなに良いものはないわ」
「なるほど─────」
逢坂はガードレールに寄り掛かり、少し考えた後、納得したように頷いた。
「よろしい。一つ差し上げましょう。もし信じられなければ、ひと夏の魔法とでも思って下さい」
そう言って握りしめた拳を突き出す。手のひらを開くと手品のように一枚のカードが現れた。
「どうぞ」
「─────ええ」
彼の手からカードを取る。プラスチック製のそれは、真夏の火照った手にはひどく冷たく感じた。
「貴女に、3分間の権利を与えます」
逢坂がパチンと指を鳴らす。その瞬間、雛子の手の中のカードが一瞬だけ熱を持った気がした。
「使うも使わないも貴女の自由ですが。3分間、好きな所へおかけ下さい」
そうして逢坂が示した海から少し離れた先には、潮風で錆びた緑色の電話ボックスがあった。
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