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幸いボックスの周りは大きな木が日光を遮っており、ボックスの中が灼熱地獄と化す事だけは免れていた。その事に雛子は少しほっとする。
逢坂はその木陰にすたすたと歩いていくと、コートをパタパタやり出す。
「……暑っつ」
「見てるこっちも暑いです」
呆れ返る雛子。それを見て、逢坂は観念したようにすごすごとコートを脱ぎ出す。しかし中に着ているリネンシャツも、また黒い。それを見て雛子の顔はさらに渋くなる。
「黒って日光を吸収するの、知らないのかしら……いいわ、後で海の家で爽やかな物を選んで差し上げますわ」
「別に良いんですけどね」
「私が良くないわ」
彼女も彼に並んで木陰に入る。
「使いますか、それ」
逢坂が訊ねる。
「うーーーん……」
訊ねられた少女は小さく唸る。
「かけるべき人が思いつかないの。折角だから自分のスマホではかけられないような、過去や未来の今と全然違う時代とか場所の人にかけないと勿体ない気がして」
「別に固く考えなくて良いのですよ。気にせず、かけたい人にかければ良いのです」
雛子は少し考えたあと、自身の日傘を逢坂にずずいと差し出した。
「私がかけている間、これ、持っていて下さらない?」
「優しいですね」
「うるさいです」
「ごめんなさい」
雛子は頬を膨らませる。逢坂はそれをにこにこと眺める。
「3分間ですわよね」
「ええ。かけたい人の名前を唱えてから3分。簡単でしょう」
「簡単、かしらねぇ……」
雛子は電話ボックスの扉に手をかけた。
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