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雛子は電話ボックスのドアを閉める。
狭い部屋にひとりきり。
彼女は改めてカードをまじまじと見つめる。まるでモンシロチョウに色とりどりに絵の具を滲ませたような美しい花の写真がプリントされている。
「…見た事ない花だわ。お庭になかったものね」
独りごちると、そっと表面を撫でる。伝わってくるはずもない花弁の柔らかさが伝わってくるような気がして、心が和らいだ。
雛子は挿入口にカードを差し入れる。
後は、名前を言うんだっけ──────
「……」
しかし言葉が出てこない。
縋るようにボックスの外の彼に目を向ける。視線に気付いていないのか、蝉を採っては服に付けて遊んでいる。ああ、何て自由な人─────
雛子は笑みをこぼした後、電話に向き直る。表情を引き締め、思い切って言った。
「お父さんに、繋いで下さい─────」
一息に重い受話器を持ち上げた。
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