映画館

1/1
前へ
/21ページ
次へ

映画館

 映画館から出たとき、外はまだ明るかった。  五月の夕方は、目にしみた。 「どうする? どこか行く?」  花田くんが顔を覗き込んでいった。  一見美代子の意見を聞こうという姿勢があるけれど、きっと二人っきりで、「ご休憩」したいんだろうな、とわかっていた。  タイミングを見計らっている。 「喉かわいちゃった」  美代子は自然さを装い答えた。  じゃあ、スタバ入ろうかと、少し先に見える店を花田くんはアゴで示した。  ほっとした。  今日はこのまま帰りたかった。  花田くんと会うと、いつも疲れる。  気を張ってしまう。  彼の前では特にそうだ。  二人はいちおう、付き合っている。  お互いの友人たちもそう認識しているし、公認の、というやつだ。  直美も真緒も、「お似合い」といってくれている。  なんなら「応援」してくれている。 「美代子も花田くんも、ぐいぐいいかない同士だからさあ」  などと直美はやたらと急かしてくる。  面倒なので、どこまで進んでいるのか、発表しないだけだ。  カウンター席に、二人は座ることができた。  これから先のことを、うまくかわしたい。  でも花田くんと自分はなにを話したらいいんだろう。  なんとなく、いつも会話がかみ合わない。  そういうもんなんだろうな、と思っていた。  インドアな美代子と、ザ・体育会系の花田くんに共通点はそもそもない。  同い年であること、女子校と男子校で、それぞれあまり異性と接点がないことくらいだ。  美代子はカフェラテをすする。  花田くんはいつも横で、微笑んでくる。  会話が途切れがちとなり、沈黙に至る。  そして焦る。  悪循環だ。  店内の雑音が煩わしかった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加