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映画館
映画館から出たとき、外はまだ明るかった。
五月の夕方は、目にしみた。
「どうする? どこか行く?」
花田くんが顔を覗き込んでいった。
一見美代子の意見を聞こうという姿勢があるけれど、きっと二人っきりで、「ご休憩」したいんだろうな、とわかっていた。
タイミングを見計らっている。
「喉かわいちゃった」
美代子は自然さを装い答えた。
じゃあ、スタバ入ろうかと、少し先に見える店を花田くんはアゴで示した。
ほっとした。
今日はこのまま帰りたかった。
花田くんと会うと、いつも疲れる。
気を張ってしまう。
彼の前では特にそうだ。
二人はいちおう、付き合っている。
お互いの友人たちもそう認識しているし、公認の、というやつだ。
直美も真緒も、「お似合い」といってくれている。
なんなら「応援」してくれている。
「美代子も花田くんも、ぐいぐいいかない同士だからさあ」
などと直美はやたらと急かしてくる。
面倒なので、どこまで進んでいるのか、発表しないだけだ。
カウンター席に、二人は座ることができた。
これから先のことを、うまくかわしたい。
でも花田くんと自分はなにを話したらいいんだろう。
なんとなく、いつも会話がかみ合わない。
そういうもんなんだろうな、と思っていた。
インドアな美代子と、ザ・体育会系の花田くんに共通点はそもそもない。
同い年であること、女子校と男子校で、それぞれあまり異性と接点がないことくらいだ。
美代子はカフェラテをすする。
花田くんはいつも横で、微笑んでくる。
会話が途切れがちとなり、沈黙に至る。
そして焦る。
悪循環だ。
店内の雑音が煩わしかった。
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