花田くん

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花田くん

 花田くんとは、去年の文化祭のときに知り合った。  美代子の学校の文化祭は、入場券が必要だった。  それは父兄しか手に入れてはいけない、となっている。  だが、どこからか入手して、男の子たちがやってくる。  わりに美代子の学校は近隣の男子高校生たちに人気だ。  けっこう可愛い子が多い学校、ということになっているらしい。  制服にだまされてんじゃない? と直美たちは笑うが、まんざらでもなさそうだ。  実際、制服はかわいい。  いまでは慣れてしまいありがたみもないけれど、入学当初はチェックのスカートが嬉しかった。  美代子のクラスは、文化祭でタピオカジュースを販売することになった。  持ち回りの時間のときに、一緒に店番するはずだったクラスメートがいつまでたってもやってこず、美代子一人で切り盛りする羽目になった。  直美や真緒に助けを求めたのだけれど、二人とも部活の出店や発表が重なっていて、これない、と連絡がきた。  謝罪のラインスタンプを見て、どっと疲労が湧いた。  ジュースのなかにタピオカを入れるだけ、の簡単なものだったが、わりに繁盛して、やってこない生徒を呪いながら売り続けていた。  あと一時間ここでい続けないといけないのかと思うと、業務用のタピオカがおたまじゃくしの卵にしか見えなくなってきた。  恐ろしいことに、ぎゃあぎゃあ騒がしい、美代子と同い年くらいの男の集団がやってきた。  俺はオレンジ、自分はピングレ、パインで、と次々と注文してきた。  メモを取る気も起きない。  あ、やっぱ俺もピングレ、といった瞬間、美代子は真っ白になった。限界だった。 「すみませんけど」  美代子は声を震わせながら、いった。 「全員オレンジでいいですか」  一瞬場が凍った。  全員が顔をしかめた。  美代子は頬をひくつかせていた。 「ごめんなさい、一人でやっているんで、ちょっと無理です」  怒って帰ってくれてもかまわない。  そう思った。 「そうしよう」  集団のなかの一人がいい、男どもから集金しだした。 「はい」  そういって、美代子に金を手渡した。  ごめんな、なんかすみません、と男たちは謝罪の言葉を口にした。 「ごめんなさい」  美代子もまた、謝ったものの、彼らの顔を見ることができず、うつむきながら、タピオカオレンジジュースを作った。 「中学の同級生が、美代子ちゃんのこと気になってるみたいなんだけど」と店番をバックれた同級生が翌日、キットカットをお詫びに持ってやってきた。  そして、花田くんを紹介された  あの集団のまとめ役の男の子だった。
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