男の子

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 花田くんはラクロス部である。  帰宅部の美代子と違い、遅くまで部活動がある。  土日も練習があったり試合があったりする。  こうやって美代子と会うときは、彼の貴重な休みというわけだ。  ハードな練習をこなしているであろうに、休みの日は必ず美代子に、どこか遊びにいこうよ、と誘ってくれる。  なんとなく美代子は気を使ってしまう。  部活に入っていない自分と違って花田くんは忙しい。  わざわざ自分に会ってくれて、今日も映画に付き合ってくれた。  しかも美代子の観たい映画にだ。 「広瀬すず、かわいいよね」「漫画読んでいないし、前の映画も観てないからツタヤで借りて予習した」「真剣祐って名前ちょっと面白くない?」などと率先して話しかけてくれる。  上映中、ポップコーンをつまもうとしたとき、手が触れたけれど、もう別に慌てることもない。  最初のデートで花やしきにいったとき(どうすりゃ花やしきになるわけ? と直美は呆れていた)に比べれば、ふいの接触に慣れた。  いや、そもそも、することは、済ませている。  花田くんの裸を見たとき、びっくりした。  しっかりと「男の人」だった。  雑誌で見る、アイドルよりもしっかり筋肉がついていて、服を着ているときよりも背が高く、身体つきも大きく見えた。  前にそんな感想を漏らしたら、 「着痩せするんだよね」  と嬉しそうにいった。  花田くんは部活の友達を信頼している。 「うるさいしめんどくさいやつらなんだけど」  なんていって顔をしかめたりするけれど、彼らのアドバイスを忠実に守っているらしい。  花田くんいうところの「部活の友達に教わって」「高校生でも大丈夫な」「そんなにお金もかからない」場所で、なしくずしにおよんでしまったことに関して、美代子はべつに不平などない。 「一度そうなるといきなり態度でかくなる、マジで男ってクソ」  と直美がかつて話していた。  花田くんにおいてはそんなことなかった。  彼は絶対に美代子が応じない限り、求めない。  三回のデートのうち二回は、なにかと理由をつけて断った。 「そうなんだね」  花田くんは別に気にしないよ、ごめんね、なんていって、最寄りの駅まで送ってくれる。  嫌がることを無理にしようとしない。  それは部活の友達のアドバイスなんだろうか。  かつて文化祭で一緒にいた男の子たちの顔を思い出すことができない。  どいつもこいつも印象に残らなかった。  実は、花田くんもそうだった。 「めちゃイケメンじゃん」 「美代子、ぜってえ離しちゃダメだよ、アタリだよ」  直美たちはそういう。  美代子だって実際面食いだ。  好きなタレントと、花田くん、もっと広げて「普通の」男の子たちは違う。  身近すぎるからなんだろう。  タレントならば、距離が遠くて気軽に憧れるし、いいなと思える。  でも、花田くんたち「メンズ」(直美のいい方で)は、近すぎるのかもしれない。   なんとなくまた、あそこに行きたいのだろうな、とそわそわしたものをいつも帰り際に彼から感じる。
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