エヴァ

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エヴァ

「なにやってんのお前」  いつもの花田くんとはずいぶん違ったテンションだった。  ああ、男子同士でいるときって、こんな感じなんだろうなあ、と美代子は後ろで見守った。  花田くんの練習や試合を応援にいったことがない。  男子同士でつるんでいるのは、去年の文化祭でしか見たことがなかった。 「こんにちは……」  友達のはずなのに、その男の子はやけに他人行儀だった。  美代子たちは男の子のほうへと向かった。 「お前なにしてんのこんなとこで」  花田くんがいった。  なんだろう。きつい口調に感じられた。  男の子は、あのう、とか、そのう、とか口をもごもごさせていた。  うまくしゃべることができないタイプなのかもしれない、と美代子は察した。  どこかで見たことがあるような気がした。  思い出せない。  美代子がさきに名乗った。  花田くんとの関係は、いわなかった。  花田くんもべつになにも付け加えなかった。  男の子は黙っていた。 「こいつ、同じクラスのエヴァ。エヴァンゲリオンみたいな体型してるから、エヴァってみんな呼んでんだよ」  ど、どうも、とあだ名で紹介された男の子は下を向きながら、いった。  たしかに彼は、長身だったけれどひょろ長く、猫背気味だった。  エヴァンゲリオンのことをよくわかっていなかったので、美代子は、曖昧に頷くことしかできなかった。  スポーツマンで、ラルフ・ローレンのティーシャツを着て、美容院でツーブロックにしている(これらもすべて「部活の友達に教わった」そうで)花田くんと、無頓着なのだろう、大きいサイズの服を着ているからなのか、余計に細さが目立ち青白い、しかも髪ものばしっぱなしで目も隠れ気味なエヴァは、男で同い年でクラスメートという共通点以外、まったく違う種族だった。  絶対に相容れないように見える。  美代子はエヴァの顔を見ていて、といっても髪で隠れ気味だったのだけれど、なにかを思い出しそうになっていた。  会ったことがあるような気がする。  でも、やはり思い出せない。 「じゃあ、またな」  花田くんはそのままこの場を切り上げ、美代子の手を引っ張った。  いつもよりそれは力強く、驚いてしまった。  エヴァから離れた。  美代子が振り向くと、エヴァは景色を眺めていた。  ほんとうに見ているのかはわからない。 「すごいね」  帰りのエレベーターのなかで、美代子はいった。 「なにが?」 「ここ、学校で人気なの? 同級生に会うとか」 「いや、そんなことはないんだけどなあ」  といって、花田くんはくすくすと笑った。  意地悪そうな顔をした。 「まさかエヴァ発進とはねえ」  たぶん、エヴァとはとくに仲も良いわけではないのだろうな、と理解した。  もっといえば、エヴァのことをバカにしているんだろう。  花田くんを見ていることができず、美代子は降りるまで、階表示をずっと見つめていた。
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