#01.そんなあなたと契約するまで/#01-01.失恋、のち、プロポーズ

2/11
5900人が本棚に入れています
本棚に追加
/369ページ
 しっかり頭を下げ、拍手を受け入れるその略奪者を彼女はただ、呆然と、見ていた。頭が真っ白になり、足ががくがくと震え、なにも考えられない……涙が湧き上がるのを、彼女は歯を食いしばって堪えた。ここで泣いてはいけない、という社会人としての理性が、かろうじて、彼女の涙腺を、食い留めていた。  すると前方を向いていた、山崎が後ろポケットからスマホを取り出す。山崎は、彼女とは別の部署所属なので、比較的彼らの距離は離れている。メッセが来た。 『あとでちゃんと、説明するから』 「……どういうこと?」  時刻は十七時を十五分過ぎたところ。電光石火の、派遣社員の結婚及び妊娠発言を受けたばかりの彼女はまだ、気持ちの整理がついていない。されど、理由が、知りたい。それが強く彼女の願うことであった。オフィスを出てすぐの廊下に向かい合って立つ山崎は、気まずそうに、「その、……一度きりなんだぜ? ナマでやったの。信じてくれよ……」  つまり、避妊したうえでの浮気を重ねていたわけだ。四ヶ月以上も前から。――呆れた。自分にも彼にも。
/369ページ

最初のコメントを投稿しよう!