#EX-12.広坂冨美恵の許容と慈愛

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「いえ。全然……」と彼女。「離婚したら生活レベルが下がるのは瞭然なので。たぶん、病むと、思います……。いまの快適な生活に慣れきっているので。もし夫が先に死んだらそのときはまた考えますけれど、いまの状況では、いまの生活を壊すことなど先ず、考えらんない、です……」 「明かりが見えたわね」と冨美恵。「深い暗い穴倉に迷い込んだあなたのなかのトンネルに」  冨美恵の比喩に彼女は笑った。「そうですね……話すことですっきりしました。美容室は近所で……探します」 「美容室探しも案外楽しいものよ?」と冨美恵。「見知らぬ女性と当たり障りのないトークで盛り上がる。ご主人の愚痴を言う。……男性だったのなら今度は女性でどうかしら? 女性のほうが、やはり、共感能力が高いから、あなたの苦しみを和らげてくれると思うわ……」 「ありがとうございました冨美恵さん」と頭を下げる女性。「ひとりで溜め込んで苦しかったんで……楽になりました。ありがとうございました」
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