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それは他の誰でもない、冨美恵が自分で判断して決めたことだ。昇と結婚したことも、二児を産んだことも……。でも時々、どうしようもなく虚しくなることがある。なんのために、自分は生きているのかと。分からない。見えなくなる自身を冨美恵は自分のなかに発見する。何者になるのか分からない、十代の頃のように自分を持て余していた自分を。――そんなとき、必ず、冨美恵は思いだす。いったい自分がなにをしでかしたのかを。それは、冨美恵が一生背負うべき十字架だった。
第一印象がすべてではない。
だが、その人間を決定づける大事な要素ではある。例えば、服装に無頓着な人間は、他人の目に自分がどう映るのかを意識していない。自分は、景観を汚さぬひとつの要素。他人を不快にさせない程度の美意識は大切だ。
息子である譲が最初に選んだ女性は、自意識過剰とも言える女性であった。髪や服装にメイクに金をかけ、それは別によいことなのだが、……けばけばしい。譲は冨美恵の自慢の息子だ。放っておいても女のほうからやってくる程度の見た目と良識を兼ねそろえた美男子だ。なのに、何故、母親よりも化粧の濃い女を選んだのか。意味が分からなかった。
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