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病院嫌い
病院は好きじゃない。
元々俺が病院嫌いというのもあるが、なんというかあの独特の閉塞感のようなものが駄目だ。
もちろん批判は承知している。きっと病院関係者が聞いたら真っ向から否定してくることは想像に難くない。でも、それでも少し弁明させていただくと、俺の病院嫌いは俺の仕事のせいであるとも言える。
事件が起きて病院に運ばれた人々は、病や怪我をして病院に来た人々よりも複雑な事情を抱えてしまっている場合が多く、悲惨な状況に陥っている場合も少なくないからである。
一家心中の生き残りと話をしたことがある。中学生の男の子。金銭的なトラブルで神経的に参ってしまった父親が家族を惨殺したという新聞の一面を飾った事件。
日曜で友達と遊んでいた次男のケータイに父親から着信があったのだという。いつもと変わらない口調で『早く帰ってこい』と。
結果としてその次男が家に帰るよりも早く、事件は近隣の住民の通報で発覚し、父親の自殺という形で幕を降ろしたわけだが、その男の子はいまだに電話恐怖症が治らないのだという。
これは際立って悲惨なケースだが、事件の大小に関わらず、加害者にしろ被害者にしろ、人間の陰の部分が顔を出す『事件』と『病院』の組み合わせは最悪だと思っている。
「布施晴海さんですね。お待たせして申し訳ありませんでした。ちょうど外出から戻ったばかりのところでして、車椅子からベッドに移っていただいていたのです」
「元気そうですか」
「えぇ、とてもお元気ですよ」
そう言って二十代の若い女性看護士は俺たちを病室へと案内してくれた。
ドアのない、廊下から中が丸見えになっている病室の窓側に、優也の祖母の藤枝百合子がいた。
「あら、晴海さんに優也くん。それに、えっと」
「三沢亜紀です。はじめまして」
亜紀ちゃんはぺこりと頭を下げた。
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