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次に目が覚めたのは夕陽を浴びて赤茶けてる筈の、市議会が管理する独居房の一室の、固い藁ベッドの上だった。
「暗いなここは…うっ!」
俺は酸えた、少し鉄の臭いのするいや な臭いのする半ば傷んだベッドから起き出し後頭部を右手でさする。
固まりかけた血の、ヌルッとした感触を指の間で感じた。
「あの、大丈夫ですか?」
不意に独房の外から微かにかけられた若い女の子の声に俺は、ナニかに突き動かされるようにズッと立ち上がり、固く、恐らく何重にも閂をかけられ、蹴っても引っ張ってもビクともしなかった独房の鉄扉に開口した小さな丸い格子窓に顔を近付ける。
そして獣の脂を燃料とした臭い黒煙を細くあげる仄かな通路の灯りを頼りに、目を凝らして声の主の居所を探した。
「あの大丈夫ですか?その、どこか痛くはありませんか?」
声の出所は斜向かいの、自分が拘禁されているのと同じ作りらしい厳重極まりない独房から聞こえているのがわかったが、あまりに暗くて丸窓にくっついて話しているらしい声の主の顔は、ちっともわからなかった。
「…誰だ?」
“看守に目をつけられては敵わない。”そう考えた俺は、なるべく小声で謎の女に問いかける。
「大丈夫。看守はここよりももっと厳重な外の廊下の扉の前にいるわ。だから、そんなに声を小さくしなくても聞こえたりしない」
だってここにいるのは逃げられやしない、私たち死刑囚だけですもの。
そう女は付け加えた。
「…そうなのか。実は俺、街の民衆の投石にあって頭に怪我しちまってな、ただ正義を遂行しただけだってのに、ひどい仕打ちもあったもんだ…」
「そう…」
こうして俺は、この俺と同じ死刑囚を名乗る不思議な女と最後の日まで共に過ごすことになってしまった。
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