私という人

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「はいお父さん、今日はお弁当あるよ」 さっきまで冷ましてたお弁当を包んで、お父さんに手渡す。 「お、ありがとう琴!今日は昼が楽しみになったなぁ」 人当たりの良さそうな笑顔を浮かべるお父さんは、見た目通りの優しい人だ。 「いってらっしゃい、お父さん」 「行ってきます」 ポンと私の肩を叩いて、お父さんは革靴を履くと仕事へと出かける。それを見送った私も、学校へ行く準備をする為に部屋に戻った。 「お母さん、行ってきます。今日も一日、お父さんと琴を見守ってね」 仏壇に手を合わせると、遺影の中で笑うお母さんと目が合う。 遺影の写真らしくない、楽しそうな満面の笑顔。 お母さんは私が四才の時に病気で天国にいってしまったから、鮮明な記憶は残ってない。だけど凄く明るくて前向きで、何でも笑い飛ばしてしまうような快活な人だったってお父さんはいつも言ってる。 私のおぼろげな記憶の中にいるお母さんも、笑顔ばかり。繋いだ私の手をお母さんがブンブン振り回しながら、いつも二人で幼稚園まで歩いて行ってたと思う。 お母さんがいなくなってしまった時は、物凄く悲しかったのを覚えてる。死というものをハッキリと理解してた訳じゃないと思うけど、小さいながらもう二度とお母さんは笑わないんだと思ったら、悲しくて仕方なかった。 お父さんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、私に笑いかけてくれたような気がする。 「お母さんの分まで、二人で楽しく暮らしていこうね」って。 通学路を歩いてる途中で、後ろからツンと背中を突かれた。 「おはよう、琴ちゃん」 「あ、おはよう美里ちゃん」 同じクラスの新開(シンガイ)美里(ミサト)ちゃんは、小学校の時からの友達。って言ってもウチの中学の殆どが同じ小学校出身だけど。 「今日蒸し暑いねぇ」 「ね、何かジメジメして嫌な感じ」 「あ、ラケット忘れちゃった」 私と同じソフトテニス部の美里ちゃんは、私の背中に掛かってるラケットのケースを見てしまったって顔をする。 「美里ちゃんがよければこれ貸してあげるよ、私部の倉庫にもう一本古いヤツあるから」 「ホント?助かる?ありがとう、琴ちゃん」 「いえいえ、どういたしまして」 美里ちゃんのホッとした顔を見て、私の心もほんわかと温かくなった。
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