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私は何を、求めているのだろう。私自身にも、よく分からない。
ただ何かを掴みたいと、掴んでほしいと、真っ直ぐに手を伸ばした。
「…」
温かい感触に、閉じていた瞼を開ける。
「閻魔大王様…」
天に向かって伸ばされた私の手は、案じるような瞳で私を見つめる花巻琴の小さな両手にしっかりと包まれていた。
「大丈夫ですか?閻魔大王様…」
「…ああ、大事はない」
辺りを見渡さずとも、ここが自室なのだと分かった。
「貴様、そこを退くのだ」
馬頭の厳しい声が飛び、花巻琴の手が私から離れる。無意識に、先程まで握られていた自分の手の平をジッと見つめた。
「…大王様」
「馬頭か。面倒をかけたな」
「ご無事で何よりです」
馬頭が私を見て跪き、安堵の溜息を吐く。
「大王様〜、心配しましたよ〜もう」
「牛頭、お前は面白がっていただけだろう」
「嫌だなぁ、流石の俺でも大王様が倒れたのに面白がったりしませんよ〜」
牛頭のことだ。布の下では、意地悪い笑みを浮かべていることだろうな。
「あの…大王様」
馬頭牛頭の後ろから、控えめな声が聞こえる。
「私のせいで、ごめんなさい」
「先程も申しただろう。お前が謝罪する通りはありはしないと」
「…はい、ありがとうございます」
それ以上言えば余計に気を遣わせると感じたのだろう、花巻琴は明らかに肩を落とした様子でそう口にした。
「…馬頭、牛頭」
「大王様」
「暫く席を外してくれ」
「…それはなりません。この娘だけを残していけばまた何を呼び寄せるやら」
案の定、馬頭が難色を示す。
「空気を読まない無粋な男って嫌だよねぇ。もちろん、俺は出て行きますよ〜」
「牛頭、貴様…」
「大王様、分からず屋の唐変木は俺に任せて、琴ちゃんとごゆっくり〜」
些か勘違いをしているようだが、いちいち訂正するのも面倒だ。
牛頭が強引に馬頭を部屋から連れ出し、私と花巻琴だけが同じ空間に佇む。チラリと目をやれば、忙しなく視線を彷徨わせていた。
「さて。そのように縮こまるな。とって食らおうというわけではないのだからな」
「そ、それはわかってます」
「お前は、あちら側へ帰らねばならぬ」
瞬時に、娘の顔が曇った。
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