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目には見えない本当のこと
「お願いします!私の不注意で汚れちゃったことにしてください!」
「でもなぁ、花巻…」
「土屋先生、お願いします!」
土屋先生を呼んできて、私はダンボールに入ったうちわを見せた。土屋先生は口に手を当てて物凄く驚いて。
「落としただけじゃ、こうはならないよな…?」
「…」
「花巻、何か知ってるか?」
その問いかけに、ふるふると首を横に振る。忘れ物を取りに来てみたら、もう既にこの状態だったと説明した。
「辛いなぁ、折角花巻や美術部の子達が頑張ってくれたのに」
私の真っ赤な目元に気が付いたのか、先生は私の頭に優しく手を乗せる。
「花巻の気持ちは分かるけど、このままにはできないんだ。これはどう見ても…」
「分かってます!分かってるけど…犯人探しみたいなことしたくないんです…」
また涙が出そうになるのを堪えて、私は必死に訴えた。私の頭の中には、さっきの寺町君の表情が焼きついて離れないまま。
それでも、知らないふりを続けた。
「でも追及しないわけにはいかないんだ。他の先生方にも報告することになるし、どの道広まってしまう。刃物を使ってるように見えるし、うちわだけで済まない自体にもなりかねないから」
「…」
「花巻がクラスを思う気持ちは素晴らしいけど、隠しておくことはできない。ごめんな、花巻」
「私こそ、無理言ってすいません…」
「このクラスの人がやったかどうかもまだ分からないし、しっかり調べてみよう!」
シュンと項垂れる私に土屋先生は優しい声色でそう言って、段ボールを持ち上げた。
「取り敢えず、皆に報告するのは明日体育祭が終わってからにしよう。折角毎日練習してきたのに、動揺してしまってそれどころじゃなくなってしまうと困るから。誰にも言わないと約束できるか?」
「…はい」
「よし。じゃあもう今日は帰って、ゆっくり休みなさい。きちんと報告してくれてありがとう花巻」
帰り道、いつもより何倍も足が重くて道のりが長く感じる。
寺町君のあの顔が、どうしても頭から離れなかった。
あのうちわを手にした彼を見て、最初は犯人だと思った。でも普段の寺町君を思い出して、すぐに思い直したのに。
優しい寺町君が、そんなことするはずないって。
そしたら彼は、自分で認めてしまった。それも、私への恨みからやってしまったような言い方。私のことが嫌いだから、私を困らせようとしてやったんだって。
「明日、どうしよう…」
折角協力してくれた美術部の二人も悲しむだろうし、クラスの皆もうちわがなかったら不思議に思うだろう。
先生から発表があるまで私は何も言わないけど、明日皆がどんな反応をするだろうと想像しただけで、また泣きそうになった。
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