これからの私

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話ができるようになってから、私はすぐお父さんにお願いした。同じクラスの、寺町忍君と連絡が取りたいって。担任の土屋先生に聞けば、連絡先を教えてもらえるかもしれないって。 そう必死にお父さんに訴えたら、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「琴が目覚めたら連絡がほしいって、連絡先をおいていったんだよ」って。 お父さんの話では、私の事故を聞きつけた寺町君が、病院までやってきたらしい。集中治療室には入れないからお父さんらしき人に片っ端から声をかけて、見つけたんだって。泣くのを必死に堪えながら「お願いですから、ここに居させてください」って頭を下げたんだって。 お父さんが「心配してくれるのは嬉しいけど、寺町君にも学校があるしそれは良くない」って言うと、電話番号が書かれたメモ帳を千切ってお父さんに渡したらしい。 「琴さんが目覚めたら、どうか教えてください」って。 「いい子だよね、寺町君。辛い時に無理言ってすいませんって、何度も謝ってたよ。目を真っ赤にして、よっぽど琴が心配だったんだろうなぁ」 「…うん」 お父さんは私が意識を取り戻してすぐ、寺町君に連絡してくれたらしい。寺町君の「よかった」って声が震えてたって教えてくれた。 一般病棟に移ってから「よかったら顔を見にきてやってくれ」って連絡したら「用事があるから行けない」って言ってたらしくて。その声が凄く落ち込んでるように聞こえたってお父さんは言う。 「寺町君、琴に会いたいだろうになぁ」 「そう、なのかな」 「お父さんが連絡取ってたから、一番よく分かるよ。あぁこの子は、心の底から琴の無事を祈ってくれてるんだなってさ」 「…」 枕の下にある、私の手帳。それに手を伸ばして引っ張り出すと、パラパラとページをめくった。体育祭で使うはずだったクラスのうちわの図案。それをジッと見つめると、浮かんでくるのはあの日の寺町君の顔だった。 「いい友達をもったね、琴」 「うん」 返事はするけど、頭は別のことでいっぱい。 「ま、まさかとは思うけど、寺町君は友達だよね?琴」 「…」 「琴?ね、ねぇ琴!?」 「うん」 「だ、だよね!?もう、急に黙るからさぁ!」 適当に相槌を打って、私はある決心をしたのだった。 「ごめんね寺町君、強引に呼び出したりして」 ベッドの上に上半身を起こして、目の前の寺町君に謝る。彼は携帯を握り締めたまま、目を見開いて私を見つめた。いつも寝癖一つない髪はボサボサで、息も乱れてる。それだけで、彼がどれだけ必死でここにきてくれたのかが分かった。 「嘘吐いて騙して、ホントにごめんなさい」 「…」 「どうしても、話がしたくて」 「…」 「ごめんなさい…」 私はお父さんの携帯電話から、寺町君の番号にショートメッセージを送った。 ーー琴が大変だ。今すぐに〇〇〇号室まで来てほしい って内容のもの。寺町君の私を心配してくれる気持ちを利用した、卑怯な手。 「怒ってる、よね…」 当たり前だ、私は嘘を吐いたんだから。話したい一心でこんなことしちゃったけど、目の前の彼を見て一気に罪悪感が襲ってきた。 「…良かった」 寺町君は力が抜けたように、ヘナヘナとパイプ椅子に座り込む。 「嘘で、よかった…」 その言葉に、私の鼻の奥がツンと痛くて堪らなくなってしまった。
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