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「お疲れ様でした、ハワード様……いえ、HOWARD4023」
メアリーはハワードの体からメモリーを抜き取り、データを全てクラウドにアップした。
もう少しすると、回収業者がやって来てハワードの体を回収する。AIや外装を入れ替えてまた別の個体として生まれ変わるのだ。一つのロボットとしては再利用されるが、この家で暮らしたハワードはもういなくなる。
夫に先立たれたアンナは、男性型のロボットを手に入れた。外見を夫そっくりにカスタマイズし、夫の人格データをインストールして、人間の感情をラーニングさせた。そうして出来上がったのがハワードだ。
夫の身代わりとして生まれたハワードは、アンナの死によってその役割を終えた。少なくとも、ハワード自身はそう判断した。
だから、アンナの死に伴う諸々の手続きを全て終えた後に自ら稼働を停止させることは、ハワード自身が決定したことだ。そんなハワードでも、停止寸前にはあんなことを言った。まるで人間のように。
メアリーは今まで何人も主人を変え、同僚となるロボットの稼働停止も何度も見て来た。新型のロボットになるに連れ、そういうことを言うロボットは増えて来たように思う。もしかすると今は、ロボットに搭載されたAIが新たなシンギュラリティを起こす5分前に当たるのかも知れない。
──もしも、天国があるのなら。そして、ハワードがアンナと同じ天国に行けるのなら。……アンナと夫なら、ハワードを暖かく迎えてくれるだろうか?
メアリーは少し頭を振った。それは検証不可能なIFでしかない。
明日からは、また新たな主人の元で働くことになる。ロボットとしての自分は、家の仕事をするという役割を果たすだけだ。
メアリーの稼働可能時間は、あと150年10ヶ月23日19時間と──5分。
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