2年前、秋

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2年前、秋

「あと5分待って」  付き合って2年目の秋。  地元の映画館でポップコーンを買おうと「しお味とキャラメル味、コンソメ味とガーリック味もあるみたいだけど、どれがいい?」と訊いた時もそうだった。  明日葉はいつもより真剣な表情で悩んでいた。  それもそうだろう。彼女に4択を突き付けるのはこれが初めてだ。   「この中から3つも切り捨てなきゃいけないなんて……」 「世界の終わりみたいな顔してる」 「だって4分の3だよ? 大陸の4分の3が海に沈んだとしたら、そりゃ世界も終わっちゃうよ。どうしよう……」  明日葉があまりに大規模に絶望していたので、少し笑ってしまった。  しかし彼女は極めて真剣に悩んでいるようだ。何とかできないだろうか。  そういえば、と思い付き、俺はメニュー表にもう一度目を通す。そしてその中に目的のものがあることを確認して、シビアな表情で思い悩んでいる彼女のほうを向いた。 「じゃあさ、全部救おうよ」 「え、どうやって」 「あれで」    俺はカウンター上部のメニューパネルを指す。  指したメニューに載っていたのは『ハーフ&ハーフ ポップコーン』だった。1つのバスケットに2種類のフレーバーが半分ずつ入っているものだ。 「これを2人で買えば4種類全部楽しめるだろ」 「え……じゃあ、切り捨てなくてもいいの?」 「切り捨てなくていい」 「そんなのアリ?」 「2人いればさ、何も切り捨てずに前に進めることもあるんだよ」  彼女は顔を輝かせた。実を言うと、俺はあまりポップコーンが得意ではないのだが。  まあ、こんな笑顔を見られるなら安いもんだな。  その後、明日葉は嬉々として『ハーフ&ハーフ』を2個頼み、それぞれを少しずつ摘まみながら俺たちは映画を楽しんだ。  ――その映画が始まる直前。  座席の両脇にセットされたポップコーンのバケツを見ながら、彼女が呟くように言ったのを俺は聞き逃さなかった。 「嬉しいな。世界が救われた」
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