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4年前、春
「あと5分待って」
大学4年生の春。
アルバイトの帰り道で、当時同じバイトをしていた明日葉に「君のことが好きです。付き合ってください」と告白をした時もそうだった。
5分? なんで5分? 5分って400秒だっけ? あれ、違うかも。
勇気を振り絞り切って好意を伝えた俺は予想外の返事に混乱したが、とりあえず「わかりました」と答える。
――そこからの5分は、地獄の5分間だった。
彼女は何も言わない。俺も何も言わない。
ただひたすら無言の5分間。
ウグイスが鳴いていたのがせめてもの救いだった。
え、振られるの?
でも振るならすぐ振ればよくない?
じゃあOKってこと?
いやでもそれなら考える時間もっといるんじゃない? 5分ってなに?
ぐるぐるぐるぐると思考の渦に溺れながら、僕はその時を待った。その間ウグイスが何回鳴いたかわからない。
5分というのは意外と長いのだと知った。
――そして、そんな静寂と混沌に満ちた5分が経って。
「よろしくお願いします」
「え、いいの?」
意外とあっさり彼女は返事をする。
あまりの軽さに思わず確認してしまった俺に、彼女は微笑んだ。
「うん。5分待ってくれたから」
今思えば、彼女は探していたのかもしれない。
決断が苦手な自分を受け入れてくれる人を。
「あなたの5分を私にくれてありがとう。好きです」
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