1年前、冬

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1年前、冬

「あと5分待って」  付き合って3年目の冬。  明日葉の家で一緒に年越しをしようと計画し、年越しそばを丼に盛り付けながら「そばに乗せるの海老天がいい? かき揚げがいい?」と訊いた時もそう言った。 「待つのはいいけど、そば伸びちゃうよ」 「う……」 「じゃあ俺、海老天もらっていい?」 「……く、持ってけドロボー!」  そばを美味しいまま食べようとしただけなのにドロボー呼ばわりはひどい。  しかしそんな俺よりも悔しそうに明日葉は拳を握りしめている。 「うぅ、斬らなきゃ斬られるのは侍だけじゃなかったのか」 「何の話?」 「いやなんでもない」 「そ、そう? わかった」  彼女の言葉に謎の圧力を感じて、俺は追及をやめた。  海老天そばとかき揚げそばをこたつの上に置き、俺たちは並んで座ってテレビを見る。年末恒例の歌番組で今年流行った歌手が自身のヒットソングを熱唱していた。   「かき揚げおいしい」 「よかったね」 「海老天より絶対おいしい」  謎に張り合ってきた。そうなるとこちらも迎えうたねばなるまい。 「いやいや、海老天めちゃくちゃおいしいよ?」 「…………」    彼女は何も言わずにじっと俺の方を見つめる。目は口ほどに、とはこのことかと俺は苦笑した。   「一口いる?」 「神様!」   自分の器を明日葉の方へ寄せると、彼女はとても嬉しそうに海老天を齧り「おいしい」と笑う。そばの湯気とこたつの熱で、彼女の頬は赤く艶めいていた。
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