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「ごめんね」
そばを食べ終わった俺たちは食器を片付け、あとは年明けを待つのみとこたつに座っている時、唐突に明日葉は謝罪の言葉を口にした。
「どうした急に」
「ううん。今までいっぱい待たせちゃったなって」
俺は彼女のほうを見るが、彼女はテレビから目を離さない。その横顔には影が落ちている。
「ほら、私って即決できないからさ。そのせいで今まで色んな人たちが私から離れていったんだよね。友達も、恋人も。……『もう待てない』ってさ」
涙は流れていなくても明日葉は何故か泣いているように見えて、俺はこたつの中で彼女の手を握る。
彼女の優しい5分が、彼女自身を傷つけているなんて。
――守りたい、と思った。
「大丈夫、俺は待てるよ」
「……ありがと。夕也に会えて良かった」
明日葉は柔らかく笑って、俺の肩に軽く頭を預けた。小さな頭の重みと髪の感触を肩に感じる。
……ああ、やばい。
彼女の素直な気持ちの吐露に、想いが溢れてどうしようもなくなった俺は彼女に言う。
「なあ明日葉」
「ん?」
彼女の力の抜けた返事と吐息が耳元をくすぐる。
俺は訊いた。
「キスされるのと抱き締められるの、どっちがいい?」
それを聞いた彼女は慌てて飛び起きるように頭を起こした。真ん丸に開いた目でこちらを見る。
「え、あと5分」
「もう待てない」
俺は彼女の肩を掴んで、唇を寄せた。
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