鵜屋(うがや)

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年が明け、水も温むようになった頃、医王院とは同盟関係にある時田家から書状がもたらされた。曰く、阿木那が桑原の地を奪取せんとて戦を仕掛ける気配である。医王院にも合力を願いたい、と。 それに、当主の医王院是豪(これとし)は了承、軍勢を揃えたのち、出陣していった。 そもそも、阿木那が奪取せんとしている桑原の地は、昨年の医王院と阿木那との戦の際、時田家の故地である桑原を取り戻してくれるよう、医王院が申し入れたものであった。阿木那に危機を与え、兵を引かせるためである。その策は成り、医王院と時田に敗れた阿木那は領地へと退却していった。 しかし、年が明け、阿木那は報復として戦を仕掛けようとしていた。しかも、医王院を直接叩くのではなく、合力した時田家に戦を挑むあたりがさすがに狡猾である。 是豪は、昨年の戦への合力の礼として、此度の時田家の要請を受け入れることを決めた。 時田家当主・蔵人長国の継室として嫁いだ妹の咲からも、時田家への合力を願う自筆の書状が届けられ、その必死の文面からも、同盟相手の危機が身に迫るものとして感じられた。それはまた、医王院へも振りかかる懸念のある危機であったからである。 戦いは、医王院の後方支援も功を奏し、時田方が桑原を辛くも守り、阿木那勢を退却させることができた。
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