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青春アゲイン
監督の近くで球児をサポートしているトレーナーに目がいった。
「う、そ」
トレーナーはかつての主将だった。
その姿が映った瞬間、メッセージ着信音ときたら、うるさいをこえて、壊れているんじゃないかと錯覚させるほどだった。
「ねーちゃん、スマホうるさい」
「知ってる」
未知のウィルスの時にセンバツも甲子園も中止になったことも合わせて放送される。そして、そのトレーナーはその時を知る主将だということも。
「ねーちゃん、泣いてるなら拭けよ」
弟に言われて、ようやく泣いていることに気がついた。最近泣いたのは母校の甲子園出場と彼氏と別れたときくらいだ。
『あのときの悔しさが忘れられなくて、でも甲子園に行きたくてトレーナーやってます』
あの頃から少し年をとり、幼さがなくなった主将はカメラのインタビューに答えていた。
『みんな、観てるかー? 甲子園来たぞ!』
ピースサインをしながら、陽気に主将は答えていた。
そのあとは今の主将にインタビューが代わり、今大会の意気込みを今の主将は話していた。彼には申し訳ないが、意気込みは全く頭に入ってこなかった。
鳴り止まないスマホを手に取り見ると、みんなも同じ反応をしていた。
『まじかー!!!さすが主将!』
『ある意味うらやましいわ!』
『甲子園の土、持ってきて貰おうぜ』
『あいつ、もう一回青春すんのかよ!』
私も皆にメッセージを送った。
『帰ってきたら、たくさん話を聞こうね』
メッセージ通知音をオフにして、私は弟と第一試合の開始を待つことにした。
完
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