あの夏の日

今年は甲子園か！？

「今年の甲子園、中止が決まった」

監督の口から重い言葉が出てきた。

世間を騒がせている未知のウィルス。その猛威は留まることを知らない。連日のニュースは私たちをヒヤヒヤさせる。

春のセンバツも中止が決まり、夏の甲子園だけでも、とチーム皆が願ってやまなかった。
練習にだって余念がない。
中堅レベルのうちの高校も目標は甲子園。でも毎年県内の強豪校に負けてしまう。

いや、私たちの代は違った。
一昨年の夏の県予選。初戦は甲子園常連校が相手だった。
ピッチャーの不調、重なるエラー、打撃も振るわない。
なんの夢かと思った。向こうにとっては悪夢だろうけど。

『甲子園常連校、破れる！波乱の県予選か？！』

翌日のスポーツ欄にはそんな文字が踊っていた。

「すごい、勝ったの！」
共働きの両親は試合の応援に駆けつけられなったが、父母会の連絡網は速報よりも早かったらしい。
私は誇らしげに話した。
「バッテリーが頑張ったし、四番以外も打ったんだから」
「すごいなぁ！ 今年は甲子園か？」
少しからかい口調のお父さん。私もからかい口調で同意する。

お父さんもお母さんも高校野球に関わったことはない。おじいちゃんもおばあちゃんも。もちろん野球好きでもない。