リモート

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春のセンバツ、中止。 この事実を受け止められずにいた私たちに、監督は発破をかけた。 「俺たちの目標は甲子園だ。それは変わらない。練習しよう」 監督は大人だ。冷静に事実を伝える。 私たちは子どもだ。受け入れられない現実にモヤモヤしたまま練習を始める。 その日の練習に身が入ることはなかった。 帰宅をすると、珍しくお母さんが帰ってきていた。いつもは夜ご飯をバタバタして作っているのに。 「ただいま」 「おかえりなさい。センバツ、残念ね」 「仕方ないよ。でもまだ夏があるし」 どうにか言葉にしてモヤモヤを飲み込む。 「そうね。夏こそ本番だもんね」 「そういえば今日は早かったね?」 「明日からテレワークになってね。今日はネットワーク環境の確認」 ため息をつきながら、お母さんは会社のパソコンを立ち上げている。 日々何かしら変化が起きている。 その日から私たちの生活は大きく変わった。 学校は休校、練習も中止。 休校期間中は自主学習がメインとなり、家に1日ずっといることがほとんどになった。 テレビのニュースは連日、未知のウィルスばかり。気が滅入りそう。 そんな生活が2週目になったとき、主将から連絡が来た。 『リモート、自主トレしよう』 リモート接続して、筋トレやコアトレをみんなでしようという企画だ。マネージャーには関係ないかもしれないけど、もしかしたら出来ることがあるかもしれない。 早速主将に連絡をした。 『お疲れさま。リモート自主トレ、良い企画じゃん。マネジも関わらせてよ』 主将からの返信も早かった。 『記録つけたりとか、カウントお願い出来ないかな?』 『OK』 『一気に全員繋がんないと思うから、学年ごとに自主トレにする予定。他のマネジにも連絡お願い!』 『了解ー!』 『目指せ、甲子園!』 主将からのそのメッセージは力強かった。なんだか嬉しくなって、私も同じ内容で返信した。 そこからリモート自主トレに参加したり、リモート勉強会をしたりして、休校期間を乗り切った。 休校期間あけてしばらくして、部活も再開になった。休校期間前よりも、練習により一層力が入る姿を見て、マネージャー陣もサポートに力を入れた。 しかし、理不尽なことはさらに私たちを追い込んだ。
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