とうとう来たか

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

とうとう来たか

「今年の甲子園、中止が決まった」 監督の口から重い言葉が出てきた。 とうとう来たか。 それがまず頭によぎった。高校総体の中止が発表されたが、高校野球連盟は無観客試合の検討などをしていることが報道されていた。 でも、そう遠くないうちに中止が発表されるのではないかと、薄々みんな思っていた。 センバツ中止の発表も衝撃だったが、甲子園中止は私たちに追い討ちをかけるだけだった。 「監督、俺たちは......」 「紅白試合になるが、夏に引退試合はやる。すまない」 監督は悔しさを滲ませながら、私たちに頭を下げた。頭を下げられては、私たちは何も言うことが出来なかった。 その日の練習はなくなり、今後の活動の確認だけして終わった。 「まさか、甲子園までとは」 ロッカールームから最後に出てきた主将は、独り言のように呟いた。 「おつかれ」 「いたのかよー。言ってくれよ。恥ずかしいじゃんか」 「たまたまだよ。甲子園、残念だね」 「だなー。俺、野球辞めたくなったわ」 驚きの発言に思わず主将を見る。ここまで頑張って引っ張ってきた主将の言葉だと思いたくなかった。 「え、えっと」 「一瞬な、一瞬。でも来年に繋げられるように、後輩鍛えないとな」 取り繕った笑顔に痛々しさを感じる。私も取り繕った笑顔で答える。 「そうね。マネジも頑張るよ、引退試合まで」 「よし、頑張るぞー」 空元気かもしれないが、主将は必死に前を向こうとしていた。 翌日の練習から三年生の足は遠退き始めていた。 夏の甲子園出場も叶わぬまま終えることに気持ちが切れたのかもしれない。駆け込みで予備校に通い始めたと聞いている人もちらほらいる。 休みがちなチームメイトに主将は何度も声かけしていた。それでもフルメンバーがそろうことは少なかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加