第四部 謎解きの花嫁、冬薔薇を手にし

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**  (隠れる場所には事欠かない)  さっき、田村氏が吐き捨てた言葉である。確かにそうなのだ。この家は、隠れる場所には事欠かない。    (どこにだって行けるもの。どこからだって)  すみは、図書室を退室した。ワゴンを通路に置き去りにして、静かに歩く。  鍵をエプロンから取り出すと、白の部屋ーー誰もいない部屋だーーの扉を開いた。  冬薔薇亨の死体が発見された部屋である。警察はここに人が入るのを禁じている。  部屋は締め切られている。空気はよどみ、しいんと静まり返っていた。    すみはぐるりと部屋を見回す。    薔薇荘の造りは謎めいており、古参の使用人ですら、すべてを把握しているわけではない。ましてや、若いすみなどが。  ただ、使用人たちは話だけは知っているのだ。屋敷には、あちこちに秘密の抜け道がある。壁の裏に通路があり、カタコンベ洞窟に通じている。これは、はるか昔の名残らしい。    貧しい人々の心の支えとなった冬薔薇は、地下のマリア観音の元で配布されていた。隠れキリシタンという扱いを受け、長く排斥されてきた人々は異様に警戒心が強い。いざとなれば、人々はカタコンベ洞窟に立てこもる構えだったのかもしれない。  この地の人々にとって「外部」は敵である。  敵がいつやってきても良いように、この屋敷全体が要塞のように造られた。    この屋敷は、もちとん何回もリフォームされているが、基礎の部分は手が付けられていない。  だから、いにしえの秘密の通路は、未だに存在しているのである。  「白の部屋」は、初夜を迎えていない花嫁のための部屋だ。  人々の中から入念に選ばれた娘が、結婚の儀の前夜に屋敷に連れられる。  すみは、聞いたことがあるのだ。花嫁は、森から地下道に入り、カタコンベ洞窟を通って屋敷に入るならわしがあったのだと。  (この部屋は、洞窟に繋がっているのかもしれないわ)  すみは、そう直感している。    消えた月子は、その秘密の通路を通って屋敷の外に出たのではないか。  しかし、すみがいくら目を凝らしても、部屋のどこに秘密の扉があるのかわかりようがなかった。  ただ一つ明らかなのは、月子だけの力で、ここから脱出することはできないということだ。  誰かが、月子に手を貸している。それも、屋敷に通じる何者かが。    おそらく、その何者かは、すべてを見通しているのに違いない。すみは思う。  だけど、それでも構わない。  (だって、もう、何もかもが終わってしまったのだもの)  すみはバスルームに立つ。  冬薔薇亨の冷たい体が置かれていた場所。    ぽろりと、伏せたまつげから涙がこぼれた。
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