エピローグ

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 寝子屋はうん? うん? と言いながら朝日の顔を覗きこもうとしてくる。絶対分かっていてやっている。うっとうしさに照れが加わって朝日はとうとう爆発する。 「ああぁ、もう! なんなんだよ!」 「いやいや、別にいいんだよ。朝日が元気みたいで良かった。その様子なら灯里ちゃんの方も良いみたいだね」 「灯里は元気だよ。ちょっと前まで昏睡状態だったとは思えないぐらいだ」 「昏睡期間二年間だけど、その後半の原因は悪夢だったからね」 「今はリハビリ中だよ。寝たきりで落ちた筋力を元に戻すための」 「そう。じゃあ退院も遠からずって感じかな」 「ああ」  突如訪れる沈黙。二人の間を寒風が吹き抜けた。二人は急に真顔になる。寒さで表情が固まったわけではない。思う何かがそんな表情にさせるのだろう。 「あの……」「ねぇ……」  計ったかのように同時に飛び出す言葉。何だか気恥ずかしい雰囲気になるが、ここは珍しく寝子屋が朝日に譲った。 「朝日からどうぞ」 「じゃあ……。あ、あのさ、俺がアンレーヴで働いていたのは灯里のためだったろ? でも転落事故の真相が分かって灯里が目覚めた今、いる理由が無くなったというか。そういう話だったというか」 「うん」 「でもさ、俺、もう少しここで働きたいんだ。だ、ダメか?」  伺うような視線を送る朝日。寝子屋はそれを真剣な顔で受け止めていたが、その表情がふと緩んだ。 「僕もその話だったんだよ」 「えっ?」
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