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〇宇野沙也伽
「あ〜ら、ごめんなさ〜い。」
「……」
校庭の水道。
手を洗ってると、いきなり顔に水をかけられた。
こいつら…
希世のファンだな?
「聞いた?妊娠してるのに、卒業する気なんだって。」
「あつかましいわよねー。」
「三組の石野さんなんか、即自主退学させられたのに。」
「神経太いのよ。」
「……」
我慢我慢。
「ねえ、本当に朝霧君の子供なの?」
ムカッ!
「キャーッ!」
頭にきたあたしは、水道の蛇口を全開にして指で水を跳ねる。
「あら、失礼。」
冷やかにそう言って歩き出すと。
「何よ!いい気になって!」
「あんたなんて、朝霧君に似合わない!朝霧君にも幻滅だわ!」
ものすごい罵声が背中に突き刺さった。
くっそ~…
泣くもんかっ。
「うっさいな!黙れ!」
ふいにそんな大きな声が聞こえて、教室を見上げると…学。
背中に聞こえてた罵声は、一気になくなった。
そうかと思うと。
「沙也伽ちゃん、大丈夫?」
タオルを持った沙都が、走ってやって来た。
「あー…大丈夫よ。そんな、大げさだな。」
「だって、風邪ひいたら大変だよ。大事な時期なんだから。」
「本当、平気。」
「ったく、希世ちゃん、無責任だよね。自分は忙しいとか何とか言って学校辞めちゃってさ。沙也伽ちゃんが辛い目に合ってるのに。」
「……」
「…沙也伽ちゃん?」
うつむいてると、つい、涙がこぼれてしまった。
「ど…どこか痛い?」
「…カヤロー…」
「え?」
「紅美のバカヤロー…」
「……」
涙が止まらない。
何だって、こんな時にいてくれないのよ。
あんたがいなきゃ…
あんたがいなきゃ、あたし笑えないじゃんか。
「沙也伽ちゃん…僕が見つけるから。絶対…紅美ちゃんのこと、探して来るから。」
沙都が泣きそうな声で、あたしに言った。
あたしは、口唇をくいしばって涙をぬぐうと。
「早くしてよね。」
少しだけ、口元を笑わせて沙都に言ったのよ…。
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