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 〇朝霧(あさぎり) 沙都(さと) 「ねえ。」 「え?」  夜の繁華街。  紅美ちゃんを探して歩いてると、後ろから声をかけられた。 「あなたでしょ。(りん)ちゃん探してる男の子って。」 「…凛ちゃん?」  色っぽいその女の人は、ピラッと一枚の写真を僕の前に差し出した。 「く…」  紅美ちゃんだ!  ショートカットで、男の格好してるけど…  紅美ちゃんだ! 「こっここっこの人っ、どこに?」  そのお姉さんの肩に手をかけて問いかけると。 「その先を右に曲がったところの「ヘヴン」って店よ。凜太郎(りんたろう)って名前で用心棒してたの。」  ゆっくりとタバコの煙を吐き出しながら教えてくれた。 「ありがとう!…と。」  僕は走り出して、引き返す。 「?」  キョトンとしてるお姉さんを前に。 「どうして、僕がこの人を探してるって?」  丸い目のまま問いかけると。 「あはは。」  お姉さんは、真っ赤な唇を開いて笑った。 「あんた、この辺じゃ有名よ?毎日毎日、女を買うでもなくさあ…可愛い男の子がウロウロしてたら、目立つの当り前じゃない。」 「は…はあ…どうも。」  なんて答えていいかわからなくて。  僕は頭をかきながらお辞儀すると、教えてもらった店に走り出した。  紅美ちゃんに会える!  そう思っただけで、胸がいっぱいだ。 『凛太郎』って名前は…なぜなのか疑問だけど。  それでも…紅美ちゃんに会える!  ずっと、ずっと探してた。  やっと… 「…は…」  全力疾走でお店の前にたどり着くと、背の高い男の人が看板の前でタバコを吸っていた。 「…あのっ…」  思い切って声をかけると。 「…わりぃけど、今満室だぜ。」  顔面に煙を吐かれて、少しだけむせてしまった。 「けほっ…そっそうじゃなくて…けほっ…」 「……」 「あの、ここに…り…凜太郎さんって…」  僕の問いかけに、その男の人はしばらく黙って。 「凜太郎に、何の用だ?」  タバコを消した。 「あっ、僕…朝霧(あさぎり) 沙都(さと)っていいます。この人探してて…」  ポケットから、紅美ちゃんの写真を取り出す。 「…今いねえよ。」  その人は写真を見たか見ないかのうちに、低い声でそう言った。 「えっ…?」 「いねえっての。今日は休み。」 「あ…」  休み…かー。  なんとなく体の力が抜ける。  やっと、紅美ちゃんに会えると思ったのに。 「あっ明日は…来ますか?」 「…ああ。」 「やったあ…」  小さくガッツポーズ。 「…おまえ、こいつの何。」  ふいに、男の人が怖い声で言った。 「えっ?」 「ずっと探して歩いてんだろ?恋人か?」 「いえ…」  なんとなく、言葉に詰まる。  なんて言えばいいんだろう。  恋人じゃないし…姉弟でもない。  でも…… 「僕の、一番大切な人です。」  キッパリ答えると。 「…、ね。」  男の人は小さく笑った。 「そんなに、いい女なのかよ。」 「そっそうです。紅美ちゃんはー…」  ちょっと怖い感じの人だけど、僕は自分のありったけの気持ちをこめて言った。 「僕の紅美ちゃんは、世界で一番素敵な人なんです。」
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