3

4/4

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 〇二階堂 海 「…建設会社の事務、デパートの受付、ブティックの店員、反物屋、イラストレーター助手…よく探してきたな、こんなに。」  目の前で、久世(くぜ)君が資料を眺めながら笑った。 「資格や希望もまぜて調べたから、とりあえず面接に行ったらどうかな。」  12人分の就職先。  調べてみると、彼女達はそこそこに資格を持ってたり、学力もある。  それについては、紅美が勉強を見ていたおかげらしい。 「あいつら、喜ぶぜ。」 「…君は、どうするんだ?」  真顔で問いかけると、久世君は資料を見たまま。 「俺は、どうにだってなるさ。」  タバコの煙をくゆらせた。 「……」  紅美を…家に帰らせる。  それ前提で、彼は店をたたむ事に決めた。  紅美はすでに店には出ず、久世君の家に…いる。  愛する女性のために身を引く。  久世君の決断は、男として…尊敬する。  …だが、これでいいのだろうか。 「ああ…そういえば…」  久世君は、ふっと優しい顔になって。 「あいつ、かわいい奴だな。」  口元を緩めた。 「あいつ?」 「沙都っていうボクだよ。」 「ああ…」 「もう、女たちのオモチャんなってる。」 「…沙都を店に?」 「あはは。やらしちゃいねぇよ。ただ、凜太郎の知り合いだって紹介しただけさ。あいつも、紅美って名前は出さずにおとなしく可愛がられてたよ。」  なんとなく目に浮かんで、笑う。 「正直で、心底素直でさ…まっすぐな目で、僕の紅美ちゃんは…なんて言うんだぜ?」 「あはは。あいつらしい。」 「ちょっと、羨ましいよな。俺も…あんたも。」 「……」  少しだけ、久世君を不敏に思う。  父親のことさえなかったら…彼は紅美と何の障害もなく結ばれるかもしれない。 「タバコ、一本もらうよ。」  テーブルに置いてあるタバコを一本取り出して火をつける。 「…あんた、タバコ吸うんだ?」 「めったに吸わないけどね。」  そう。  めったに吸わない。  でも…やりきれなくなったり、もどかしくなったりすると…体が欲しがる。  吐き出す煙の白をボンヤリ眺めながら。  紅美は…素直に帰ってくるだろうか…  そう、考えていた…。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加