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「…担任…と…おっしゃいましたか?」
入学式間近。
突然、職員室で言われてしまった。
俺が、偽名を使って忍び込んでる秘密機関の人間だと知ってるのは、理事長のみ。
去年から担任を持ってくれとは言われてたけど、理事長の助けもあって、何とか回避して来た。
が。
どうやら、理事長も今回ばかりは手に逐えなかったらしい。
「三年二組。持ち上がりで担任が決まってた角田先生のご両親が亡くなられて、家業のそば屋を継がなくてはならなくなったらしいんですよ。」
「新しい店らしくてねえ、たたむわけにもいかなくて。」
「まあ、角田先生もどっちかというと、お店向きの人柄ですし。」
「というわけで、小田切先生、期待してますよっ。」
「……」
こんなことって、ありか?
高校三年っていったら、人生の中でも重要な位置だろ?
去年から面倒見てた先生が、そのまま継ぐのが普通じゃないか。
泣きたくなるのを我慢して、渡された出席簿に目を落とす。
「…あ。」
早乙女 千世子。
…チョコちゃんのクラスか…。
と。
二階堂紅美。
紅美までいる…
「……」
実は、俺の偽教師生活も今年限り。
もう、ほとんど仕事はケリがついた。
でも…できれば紅美の卒業まで付き合いたい。
そんなわけで、いわば、今年はアフターケア。
それなら…担任っていう大きな仕事も、楽しんでやってしまえばいい。
チョコちゃんも紅美もいるなら、なおさらだ。
「よし。」
出席簿を閉じて気合いを入れると。
「若い人は、やる気があっていいですな。」
向いに座ってる内藤先生が、お茶の湯気で曇らせた眼鏡越しに笑った…。
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