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〇二階堂 海
「紅美。」
車の窓を開けて呼び止めると、紅美は振り返って。
「あ、海君。」
走って来た。
「どこ行くんだ?」
「帰ってるとこ。沙也伽の見舞い行ってたんだ。海君は?」
「俺も帰り。久しぶりに早く帰れるよ。」
「あー、じゃ乗せてー。」
「おう。」
紅美は助手席に乗り込むと。
「超かわいかったよ。沙也伽の子供。」
そう言いながら、シートベルトをしめた。
「男だっけ?」
「うん。サルみたいだったけど、希世似かな。」
「赤ん坊を目の当たりにすると、自分も早く結婚して子供が欲しいって感化されるんだろうな。」
「あはは。そうだね。」
「おまえも、そう思った?」
俺の何気ない問いかけに、紅美は少しだけ間を開けて。
「あたしは関係ないし。」
苦笑いをした。
「関係ない?」
「うん。結婚しないんだー。一生、父さんと母さんの世話になるんだもん。」
「…親不孝者だな。」
もしかして、生い立ちを気にしてるのか…それとも…
「…家出した時の彼氏が、忘れられないのか?」
直接紅美から久世君の話を聞いた事はないが、おそらく誰かから聞いてるとは思ってるはず。
赤信号で停まりながら、遠慮がちに問いかける。
「ううん…」
紅美は窓の外を眺めながら。
「あいつ、元気かなあ…」
小さくつぶやいた。
「……」
久世、慎太郎…
紅美…まだ、あいつの事…
言葉を探してると、紅美は俺の方を向いて。
「でも、あいつとは関係なく、結婚しないって決めてる。」
笑いながら言った。
「何で。」
「…なんとなく。」
「なんとなくで結婚しないなんて言ったら、陸兄たち泣くぜ?」
「そうかな。喜ぶんじゃないかな。」
「喜ぶかよ。」
「あ、信号青だよ。」
せかされてアクセルを踏む。
結婚しない…
紅美の言葉に、なぜかホッとしている自分を不思議に思いながら。
「寄ってくか?」
「うん。」
俺は、紅美を連れて家に向かった…。
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