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〇東 朝子
「うわあ…」
秋。
お弁当のお礼で連れて来てもらってる、夜景の綺麗な公園。
すごくきれい。
「寒くないか?」
「うん。」
キラキラ、あたしの気持ちも同じように光る。
大好きな人と、こんなきれいな景色の場所で同じ時間を過ごせるなんて…
…でも。
ちょっぴり、眠い。
と、いうのも。
あたしは、この日のために徹夜して論文を書き上げたのよ。
海君も今年は担任があるおかげで、なかなか休みがなくて。
やっとできた時間に、あたしは何とか滑り込むことができた。
「…朝子?」
「えっ?」
ふいに、海君があたしの肩をつかむ。
「ななな何っ?」
ドキドキして振り返ると、海君はあたしの顔をのぞきこんで。
「具合い悪いのか?」
って真剣な目。
「ど…どうして?」
「ふらふらしてるぞ?」
「そんなことないよ。元気。」
「本当かー?」
「本当。」
あたしは、精一杯明るい声。
だって、せっかくのデート……デートなのかな…
突然のように、トーンダウン。
この『お出かけ』は、これで7回目。
でも、どれもがあたしのリクエストで…そのどれも、海君はあたしに触れない。
だから、さっきの肩に手をかけられたのはドキドキしちゃったな…。
…あたしって、海君の何なんだろ。
聞きたい気もするけど…怖い。
「朝子。」
再び、海君の声。
「はっはいっ。」
「ドライビングシアターやってるぜ。行くか?」
海君が、駐車場の向こうを指さして言った。
「あー…」
そんなの見たら、寝てしまうかもしれない。
…でも。
もしかしたら、チャンスかも。
寝たふりして、海君の肩に…なんて。
かあああああ。
一人で考えて赤くなる。
あたしに、そんなことできる?
やだ。
最近、空ちゃんたちの影響、もろに受けてるような気がする…
まるで…あたし、まるで欲求不満みたいじゃない。
「朝子?」
考えこんでるあたしの顔を、海君がもう一度のぞきこむ。
「うっうん。行く。行こう。」
あたしが顔をあげてそう言うと。
「後ろの方でもいいか?」
海君は、笑顔。
「うん。」
好都合。
車に乗って、シアターの前まで行くとー…
「うっわ、カップルばっかだな。」
海君が、首をすくめた。
「男同士でドライビングシアターって、来るの?」
あたしの問いかけに、海君は大笑いして。
「それもそうだな。」
車を停めた。
タイミングのいいことに、映画は始まったばかり。
…けど。
あたしの視線は前の車のカップルに釘付け。
ベッタリ…
つい、うつむいて考えこんでると。
「眠い?」
海君が、小さな声で言った。
「う…うん…少し…」
罪悪感にかられながらも、あたしは答える。
すると…
「帰るか。」
突然、海君は後方に車がいないか確認した。
「え…えっ?」
「朝子、試験とかあって寝不足なんだろ?」
「あー…あ、全然大丈夫。」
「でも。」
「いやっ。帰らないっ。」
「……」
ハッ。
つい、本音が出てしまった。
海君は、黙ってあたしを見てる。
「あ…ごごめん…子供みたいなこと…」
「いや…」
海くんはエンジンを切ると。
「朝子でも、そんなこと言うんだなと思って。」
て、笑った。
……
な…何だか…いい雰囲気?
「じゃ、眠くなったら寝ること。な?」
「うん…」
海君にそう言われて。
つい…あたしはウトウトする。
海君の肩によりかかりたいなー、なんて思っても。
その肩の遠いこと遠いこと…
あたしの欲望は睡魔に勝てなくて、ついに…眠りに入って…
「……」
ん?
うっすら目を開けると、すぐ近くに海君の顔。
心臓が飛び出るほどの驚き!
なっななななな何っ?
もももしかして…キス?
寝たふり…寝たふりしてなきゃ!
あたしが必死で寝たふりしてると。
……?
カクン。
少しだけ、ゆっくりシートが倒れた。
…何だ…シート倒してくれただけか…
あたし、バカみたい。
一人で浮かれて…
こんなの、辛すぎる。
海君があたしに特別な人であっても、海君にはただの許嫁でしかないんだわ。
涙が出そうなのを我慢してると。
こんなにも悲しいのに、あたしは睡魔に勝てなくて。
いつの間にか……。
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