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 〇二階堂 空 「(うみ)、結婚式の事だけど。」  母さんが兄貴にそう言うと。  兄貴は資料に落としてた視線を上げて…少し困った顔をした。 「…どうしたの?難しい顔して。」 「…そのことなんだけど…」  兄貴のただならぬ雰囲気に、あたしと母さん、一緒に夕食をごちそうになりに来たわっちゃんまでもが顔を見合わせた。 「少し…延期させてもらえないかな。」 「…海…どうしたの?朝子と何かあったの?」 「朝子と何かあったわけじゃなくて…ただ、今の俺には朝子も仕事も受ける入れるほど、気持ちに余裕がないんだ。」 「……」  兄貴の真剣な声に、思わずみんな黙ってしまった。 「たっだいまー、今日のおかず何ー…………何?」  沈黙の最中に帰って来た泉が、みんなの暗い顔を見て。 「どー…したの?」  眉間にしわを寄せる。 「…海、それ…朝子には話してるの?」 「……」  母さんの問いかけに、兄貴は黙って資料を置くと。 「…行ってくる。」  そう言って、立ち上がった。 「何。何のはなっ…何よ、姉ちゃん。」  兄貴とあたし達を交互に見てる泉の腕を引っ張って。 「朝子との結婚、延期したいって。」  階段の下に連れ込んで小声で言うと。 「嘘っ。」  泉も小声で驚いた。 「何で?何で延期?」 「気持ちに余裕が持てないって。」 「何それ。」 「知らないよ。」 「朝子…大丈夫かなー…」  あたし達は顔を見合わせて。 「……行くか。」  そう言って頷き合った。  別宅に続く廊下を静かな速足で進んでると。 「空、泉。」  母さんが追い掛けて来て。 「あんたたち、隠れて聞こうなんて思ってるんじゃないでしょうね。」  あたし達の腕を取って言った。 「だー…だってー…」  あたしと泉が口唇を尖らせると。 「よーく聞いて、後で教えてよ。」  母さんは、あたし達に顔を近付けてそう言ったのよ…。
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