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 〇(ひがし) 朝子(あさこ) 『朝子。』  こたつに入って冬休みの課題をやっつけてると、ドアの外からノックと共に海君の声が聞こえた。 「はっ…はい。」  思いがけない訪問に、驚いたように立ち上がる。 『ちょっといいか?話があるんだけど。』 「……」  ドキドキドキドキドキドキ。  はっ話って…いよいよ、結婚のことかな… 『朝子?』 「あ、はい。」  戸惑いながらドアを開けると、あたしの気持ちとは裏腹に、何だか…海君は浮かない顔。 「……」  その表情を見たあたしは、小さく瞬きを繰り返してうつむいた。  …何か…深刻な話かな… 「勉強してたのか?」 「あはは…冬休みの課題。早くやっちゃえばいいのに、遊んでたから…」  少しだけ笑ってみせると。 「あのさ…」  海君は、重そうに口を開いた。 「あっ、おおお茶でも入れるね。座って?」  何だか怖くて、話を反らす。  海君はゆっくり…こたつの前に座った。  コポコポコポ。  お茶を注ぐ。 「もうすぐ学校も終わりだね。」  ハッ。  もうすぐ結婚だね、って言ってるみたいじゃない! 「…ああ。」  海君は、相変わらず沈んだ声。 「はははい、お茶。」 「サンキュ。」  海君の前に、お茶を置く。 「…話って?」  プリントを片付けながら問いかけると。 「…結婚のことなんだけど…」  出た…! 「…うん…」  もしかして…  この海君の様子からして…  結婚したくない?  許嫁の話はなかったことにしようって…そう言われるんじゃ… 「……」  空気が重い。  ドキドキしすぎて、気分が悪くなってきた。  どうしよう…  苦しくなって、うつむいてしまうと。 「延期させてくれないか?」  海君が、小さな声で言った。 「………え?」  あたしは、顔あげる。 「延期させてほしいんだ。」 「…どうして?」 「仕事もきちんと思うようにできないのに、朝子を受け入れて幸せにできる自信がない。」 「……」  今の…何?  幸せにできる自信がない…?  待って。  じゃ、海君は…ちゃんとあたしを受け入れる気でいてくれてるんだ。  小さく溜息。  良かった。 「早くから決ってたことなのに…悪い。」 「うっううん。」  あたしは、笑顔。 「正直言って…あたしも、何もできないまま結婚なんてしちゃっていいのかなって思ってたから。」 「朝子…」 「料理だって、もっと上手になんなくちゃいけないし…海君の仕事のことだって、もっと理解してあげたいし…」  海君は、相変わらず申し訳なさそうな顔だけど。  あたしは、満面の笑み。  海君がこんなこと言ってくれるなんて… 「あたしのことはいいから、仕事、頑張って?」  とびきりの笑顔でそう言うと。 「…サンキュ。」  海君は、あたしの頭をクシャクシャってしてくれた。  …思い出したようにドキドキ。 「……」  進展を期待して黙ってると。 「…ちょっとごめん。」  海君は、立ち上がってしまった。 「…え?」  あたしがガッカリした顔で海君を見てると。 「きゃっ!」  海君が開けたドアの向こう、空ちゃんと泉ちゃんが待機してる。 「…おまえら、いい加減にしろよ。」 「あはははは…」  海君の冷たい言葉に、二人は笑うしかなかったのよ…。
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