7

1/3
前へ
/74ページ
次へ

7

 〇二階堂(にかいどう) (うみ) 「あー…疲れた。」  車の中で、思わず独り言。  突然の降雪もだが、まさか積もるほど降るとは。  雪は止んだものの、この田舎道に降り積もった雪は、簡単には前に進ませてくれない。  一人で出向いた現場が早く片付いた。  今は本部も比較的落ち着いている。  そんなこんなで、俺はお気に入りの温泉に立ち寄って体を休める事にした。  温泉宿まで、もう少し。  しかし、雪のせいでいつもより時間がかかる。 「…暗くなったな。」  細い道を外れないよう気を付けて走ってると…前方に人が歩いているのが見えた。  リュックを背負った背の高い男。  当たらないようにゆっくり追い越して、サイドミラーを見る…と。 「…え。」  思いがけない姿に車を停め、バックさせる。  窓を開けて顔を覗き込むと… 「あれっ…どうしたの?」  そこにいた紅美は、真っ赤な鼻で驚いた顔をした。  …ふっ。 「おまえ、何やってんだよ。こんなとこで。」 「そこにさ、いい木工所があんのよ。ギター作ってもらいに行ってたんだ。海君は?」  少しだけ前髪についた雪を、払い除けながら…笑顔の紅美。 「俺?俺は現場の帰り。早く終わったから、一泊して帰ろうかなと思って。」 「ラッキー。」  紅美は、そう言って助手席に乗り込むと。 「あたしも泊まりたいなーって思ってたのよ。」  お願いポーズ。 「…何言ってんだ。」 「いいじゃない。あの温泉でしょ?あたし、お気に入りなんだー。」 「甘い。駅まで送ってやるから帰れ。」 「冷たいなー。今から帰ったら夜中んなっちゃうじゃんか。」 「……」  根負け…と言うか…  こんな所で偶然紅美に会えるなんて、嬉しい以外の気持ちはない。  あの屋上からこっち、紅美は学校でも俺に話しかけてこなかったし、家にも遊びに来なくなった。  気まずいと思ってたのは…俺だけか。 「おととし泊まった部屋空いてるかな。すごく景色いいんだよね、あそこ。」 「おまえ、高い部屋じゃないか。ちょっとは遠慮しろ。」 「海君も絶対気にいるって。」 「……」 「何。」  俺が黙ると、紅美はキョトンとした顔で俺を覗き込んだ。 「相部屋のつもりか?」 「当り前じゃない。もったいない。」 「バカ言うな。」 「何で。兄妹にしか見えないって。」 「……」 「あたしの卒業祝いってことで、ゴージャスにいこうよ。」  紅美は満面の笑み。  確かに、どう見ても兄妹だよな。 「…そうだな。たまには、贅沢もいいか。」  俺がつぶやくと。 「じゃ、船盛りも頼んでいい?」  紅美は、思いきりはしゃいだ声で、そう言ったんだ…。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加