7

2/3
前へ
/74ページ
次へ
「あっ、おまえっ、そんなに飲むなよ。」  キューッ。  紅美が、熱燗を一気に飲んだ。 「うはーっ。きくねえ!」  船盛りを前に、紅美はご満悦の様子だ。 「さ、海君も飲んで飲んで。」  紅美が、俺のお猪口に酒を注ぐ。 「…一応教師と生徒だぞ?」 「何か言った?ニセ教師。こんなとこに来て野暮なこと言わないでよね。」 「……」  紅美の言葉に、俺は無言で酒を飲む。 「おっ、いい飲みっぷり。」 「…おまえさ。」 「んー?」  刺身に手を出してる紅美に問いかける。 「何かあったのか?」 「何か?」  紅美の手が止まる。 「何かって?」 「いや…何か、やけにテンション高いから…」 「…テンション高いと、何かあるの?」 「俺がタバコ吸うのとか、おまえの保健室と同じだろ?」 「……」  一瞬の沈黙のあと。 「あはははは!」  紅美は爆笑した。 「海君の観察力もすごいねぇ。」 「…おまえ、酔ってるな?」 「うん。まわってきた。」  紅美は、すっかりいい気分になっている。 「海君。」 「あ?」 「アメリカ、行かないの?」  突然の問いかけ。 「…まだ迷ってる。」 「何で迷うの?」 「何でって…」  紅美は箸を置いて首を傾げながら。 「チャンスってのはさ、神様がくれるプレゼントなんだよ?それを開けなくて後悔するより、開けて後悔する方がいいと思わない?」  俺をまっすぐに見て言った。 「……」  思わず、何も答えられなくて黙ってると。 「あたしは今まで色んなチャンスをもらったのに、全然開けられなかったんだ。だから、今度こそは!って思ってるんだけどね。」  紅美は、右手を握りしめて言った。 「どんなチャンス?」 「言わない。」 「何だよ、それは。」 「あたしのはいいの。でも、海君のは、そう何度もなさそうじゃん。」 「…まあ、な。」 「昔から言ってる事なのに、なかなかだよね。どうして、織姉とか行かせてくんないの?」  刺身を、パクッ。 「言ってないし。」 「言ってないの!?」 「ああ。」 「何で。」 「…言いにくくて。」 「言わなきゃ、わかんないじゃんかー。」  思わず、紅美に説教されて小さくなる。  確かに、言わなきゃわからない。  だが…日本の二階堂を。と、期待されてるのが分かるだけに… 「全く。パスワードに使うほどの入れ込み方なのに。」  ぼやいてる紅美の言葉に、顔をあげる。  パスワード…Beyond the sea 「そう言えば、おまえ…何でわかった?パスワード。」  資料室、俺のデスクのパスワード。  紅美は簡単に開けて、自分の生い立ちを知った。 「簡単過ぎるよ。」  紅美は何でもないように。 「ま、他の人じゃわかんなかったかもね。」  って笑ったんだ…。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加